夕星万葉 「万葉集」巻一 斉明天皇代③を受講した. 講師は奈良県立万葉文化館主任研究員 小倉久美子氏である. この講座はシリーズもので,前回の受講記事はこちらである.
香具山は 畝火ををしと 耳梨と 相あらそひき 神代より かくにあるらし 古昔も 然にあれこそ うつせみも 嬬をあらそふらしき
十四番歌 香具山と耳梨山とあひし時立ちて見に来し印南国原
わたつみの豊旗雲に入日射し今夜の月夜さやけかりこそ
タイトルや左注によれば,中大兄皇子(後の天智天皇)が皇太子時代に作った歌である.
「大兄」は皇位継承権の一番高い人につけられる名前とみられ,日本書紀 舒明天皇二年(六三0年)条にも例が見られる. また,日本書紀 皇極天皇四年(六四五年)六月では「中大兄」となっており,「皇子」と書かれていないことが分かるので,今回のタイトルが特別な例というわけではない.
この説は「萬葉集註釈(仙覚抄)」(鎌倉時代)からの説である.
これは折口信夫の説だ. 「ををしと」の原文は「雄男志等」であるので一見,仙覚の説が正しいように思えるが,万葉集巻第六・九三五番歌にも「雄」を助詞として使用している例がある. また,万葉集巻第五・八九三番歌や巻十・二三0三番歌では十三番歌と同じように助詞の「を」の後に形容詞が来ている. さらに,万葉集巻八・一五八一番歌には「惜し」の例も見られる. 以上のことを折口信夫は自説の根拠としている.
そこで大和三山が出てくる当時の物語を調べてみると「播磨国風土記」が挙げられる. 「播磨国風土記」揖保郡では三山が「相闘ふ」とあるため,香具山=男,耳梨山=男,畝火山=男となる. 「住吉大社神代記」では,為奈川と武庫川の女神二柱が霊男神人を巡って争う話がある. これを参考にすれば,香具山=女,耳梨山=女,畝火山=男となる. 以上四つの説のうち有力なのは仙覚説と折口説ではあるらしい.
「あひし」を「会う」と言う意味にとれば,香具山=女,耳梨山=男となる. この十四番歌もやはり性別は確定していないということだ. ところで十四番歌にでてくる「印南国原」であるが,「播磨国風土記」揖保郡を参照している節があるらしい. ただし,「印南国原」は当時の印南郡,賀古郡,明石郡周辺の海岸を指しているため,揖保郡とは位置がずれている. 中大兄皇子は斉明天皇の西征の際,播磨国「印南国原」沿岸を通って同行しているため,この時に詠んだ歌と思われる. 西征がうまくいくよう,播磨国風土記に登場する「阿菩の大神」への祈りをこめた歌である.
まず,「豊旗雲」は「祥瑞」の一種で「慶雲」である. 「入日射し」の部分は「入日見し」ではないかという説もあるとのことである. 「入日射し」であれば,未来を願う意味になる. 「入日見し」であれば既に過去となっているので,真っ暗な中でこの歌を詠ったことになる. また「さやけかりこそ」の部分もいろいろな説があるらしい. 月は「明る」や「清む」とは言わない. 最も多いのが「照」でその他に「さやけ」や「きよく照る」がある. 「さやけ」=はっきりとで「きよく照る」=清浄なという意味があるが,どちらにしても歌の本意は大きく変わらない.
これは「高」を中国では「カウ」や「カク」と読んでいたようで,「高山」と書いて「カグヤマ」と読んでいたようである.
と同時に独学でどこまで勉強できるか心配である. とにかく万葉集を読むところから始めるか.
by Allegro-nontroppo
| 2014-07-25 19:56
| 講演会,シンポジウムなど
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