東京国立博物館で開催されたキトラ古墳壁画展は5月18日にその幕を下ろした.
このようなタイミングであるが,高松塚・キトラ古墳の被葬者に迫ってみたいと思う. 最近の高松塚・キトラ古墳はその壁画の保存や修復に注目が集まるばかりで被葬者に対する議論は活発に行われていないようだ. 高松塚・キトラ古墳と同時期の中国の墓では身分の高い者は墓誌と共に埋葬されていたため被葬者の特定はそう難しくない. 一方で,日本では一部を除き,個人が特定できる墓誌のようなものを一緒に埋葬する習慣がなかったため,被葬者の特定が困難になっている. しかしながら,被葬者の比定をあきらめてしまってよいのでろうか. 高松塚・キトラ古墳壁画が被葬者に捧げられた絵画であることを否定する人はいないと思う. 壁画を考えるにあたって被葬者をないがしろにすることは本当に壁画の価値を見定められているということにはならないだろう. 既にニュースにもなっているように高松塚古墳壁画は当分の間古墳に戻さない方針であるらしい. これについて「歴史的価値を保つためにも古墳に戻すことをあきらめるべきではない」とか「近くの施設で公開すべき」などの様々な意見があるようだが,結局は壁画の美術的及び文化的価値のみに焦点があてられているようにしか受け取れないのである. そこで高松塚・キトラ古墳被葬者の比定に挑戦してみようと思ったわけである. 今回は二つの古墳の情報をまとめておきたい. 高松塚古墳 所在: 奈良県高市郡明日香村大字平田字高松 築造年代: 7世紀末~8世紀初 古墳: 二段築成の円墳,版築による築成 直径約18 m (上段部),約23 m (下段部) 高さ5 m 石室: 横口式石槨 高さ・内法113.4 cm (北壁・左端) 幅・内法103.2 cm (北壁・上辺) 奥行・内法266.7 cm (東壁・上辺) 切石厚51 cm (東壁側石) 凝灰岩製 使用数16枚 (南北壁各1,東西側壁各3,天井4,床4) 天井石 平石 出土遺物: 棺関係遺物・金銅製透彫金具1箇,銀装唐様大刀金具類9箇,海獣葡萄鏡一面,玉類・ガラス製粟玉936箇,附土器類(土師器,須恵器,瓦器等)一括,版築層からは藤原宮期の土器「飛鳥V」を確認 被葬者: 筋骨の発育が良好な男性,憶測身長は163 cm,推定年齢は塾年者あるいはそれ以上 (壮年者以下である確立は低いが、老年者である確立も否定できない), 頭部(頭蓋骨)が見つからない (頚椎などの骨が残っていることから「斬首のごときはあり得ない」) キトラ古墳 所在: 奈良県高市郡明日香村大字阿部山字ウエヤマ 築造年代: 7世紀末~8世紀初 古墳: 二段築成の円墳,版築による築成 直径約9.4 m (上段部),約13.8 m (下段部) 高さ3.3 m 石室: 横口式石槨 高さ・内法114 cm (北壁・左端) 幅・内法104 cm (北壁・上辺) 奥行・内法240 cm (東壁・上辺) 切石厚47 cm (西壁側石) 凝灰岩製 使用数18枚 (北壁2,南壁1,東壁4 (一部2段),西壁3,天井4,床4) 天井石 屋根形切込み 出土遺物: 金属製品・木棺金具・金銅製鐶座金具及び銀鐶付六花形飾金具他及び黒漆塗銀装大刀他,漆塗木棺 (棺材,漆膜),玉類(ガラス玉,琥珀玉),微少鉛ガラス,金箔片,土器類(小破片) 被葬者:人骨片は約15点出土しており,左右の上顎骨・右頬骨や犬歯・中切歯・側切歯・第一臼歯など.重複する骨の部位がないことから,一人の熟年男性の可能性が高い. 高松塚・キトラ古墳壁画については以前作成した表を再度貼っておく. 次回は築造時期と被葬者の死亡時期について考えてみたい. ※2014年5月21日,一部,誤字がありましたので訂正いたしました.
by Allegro-nontroppo
| 2014-05-20 19:15
| 高松塚・キトラ古墳
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