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水―神秘のかたち@サントリー美術館

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「水―神秘のかたち」を鑑賞にサントリー美術館に出かけた.

冬は寒いせいか,気分が欝々とすることが多いので家にじっとしているのはよくない.

年賀状も書いたし,大掃除も大体のところは終わってしまい,2015年にやっつけなければならない用事はとりあえず片づけたので,面白そうな展覧会はやっていないだろうかと調べてみた.

12月も26日となると,年内の開館を終了している博物館・美術館も多い.

サントリー美術館で「水―神秘のかたち」と題した展覧会が行われているのは知っていたが,展覧会の内容をよく知らなかったのでとりあえず,出かける予定はなかったが,今回よくよく調べて見たところ,とても面白そうである.

行ってみると,フレンドリートークというやさしい展示解説が行われている予定であるという.

せっかくなので,参加させていただいた.


以下,概要である.


流水文銅鐸

流水文が全体に配された銅鐸というものを初めて見た.

また,鰭部を立てて丁寧に埋納されていたという部分でも珍しいらしい.

埋納遺構と合わせて八尾市指定文化才に指定されているそうである.


日月山水図屏風

大阪の金剛寺の灌頂儀式で使用された屏風である.

山水はもちろんだが,右双には日や桜が描かれており,左双には月や雪が描かれている.

この風景はこの世ではありえない.

どのような意図でこの屏風を灌頂儀式で使用したのだろうか.


香水杓

東大寺の修二会,お水取りにまつわる遺物ということである.

香水杓はお水取りの際に参詣者に香水を分け与えるのに使用されたもので,鐃は音色で場を清浄に保ち結界とすることなどに使用されたそうである.

解説では水による供養の方法(仏教では水を閼伽と呼び,ほとけを供養するのに重んじられるそうだ)というように書かれていたが,個人的には大仏鋳造の際の水銀による金メッキ作業を表していると思う.


西行物語絵巻 巻第二

尾形光琳筆ということで,2015年最後の琳派鑑賞はこの作品となった.

これまで見てきた光琳の画風とは少し異なるように思うが,西行の表情は素晴らしいと思う.


十一面観音立像

奈良県・長谷寺の十一面観音像の模造で快慶の弟子,長快の作である.

方座の上に立ち,右手に錫杖を持つ十一面観音像を特に長谷寺式というのだそうである.

長谷寺には特に朝の勤行を見に行きたいと思っているが未だ叶わない.

いつか,この十一面観音像にも手を合わせたい.


長谷寺縁起絵巻 巻上

長谷寺縁起絵巻 巻中

近江国・白蓮華谷に蓮華が咲き良い香りと光を放つ巨大な倒木があったが,ある時,洪水で流出し漂着した先々で祟りを起こした.

大津の浦では木を切ると火災や疫病を起こし,大和国の八木や当麻ではこの巨木で仏像を造ろうとした人々にも害をなした.

徳道上人が夢のお告げに従い,十一面観音像を造らせ,その後にわかに起こった暴風雨で地中から金剛宝石座が出現し,その宝座の上に安置されたという.

以上が解説にあった長谷寺の草創縁起である.

寺の草創縁起は私の知る限りでは,天皇・皇族などの勅命であったり,仏教の布教のためにお坊様が創建したという話が多いように思う.

長谷寺の草創縁起は,神社の草創縁起によくみられるお話のように思える.

他に思いつく例外は清水寺であろうか.


弁才天立像

弁才天坐像

宇賀神像

弁才天坐像

宇賀神については弁才天や稲荷神との関係が示唆されるが,あまりピンときていなかった.

宇賀神は頭部は老翁,身は白蛇という姿で食物神(穀霊神)だそうである.

最初に造形化されたのが弁才天の頭には宇賀神を頂いている姿で今回の出陳品にも見られた.

弁才天と習合された証拠で特にこのような弁才天を宇賀弁才天というそうだ.

江島,竹生島,厳島,天川は弁才天の四大聖地されているが,江島では二臂像と八臂像の両方,竹生島と厳島では八臂像を中心に,天川では八臂像に加えて三面十臂像が祀られているという.

高野四社明神像では厳島神として弁才天が童子姿であらわされている.

この違いに意味があるのだろう,興味深い.


天川弁才天曼荼羅

蛇頭人身の三面十臂の弁才天を主尊とする曼荼羅である.

この曼荼羅に多数あらわされる宝珠は弁才天の持物であり,稲荷神(吒枳尼天)や龍王の象徴であり,かつ蛇は宇賀神との習合を思わせるそうである.

なぜ天川では三面十臂姿で弁才天があらわされたのか,修験道もからめて考察してみる必要があるだろう.


弁才天十五童子像(東京・根津美術館)

弁才天十五童子像(奈良・當麻寺)

頭部に宇賀神を頂く八臂の弁才天を中心とし,下方には十五童子が描かれている.

背後には山岳が描かれており,特に根津本では理源大師聖宝らしき僧形坐像,蔵王権現.前鬼後鬼を従えた役行者の姿があり,天川弁才天を表しているとされる.

天川弁才天は修験道の影響を受けていることは間違いないだろう.


琵琶

丹生都比売神社に奉納された琵琶である.

当社第四殿に厳島明神は琵琶を弾く弁財天にあらわされることがあるという.

天川と丹生都比売神社はそう離れていないように感じるが,厳島明神が祀られているというところにポイントがあるのだろう.


吉野御子守明神像

子守明神鏡像

子守三所明神鏡像

吉野水分神社の天之水分大神として,御子守明神または子守明神,子守三所明神をであらわしている.

こうしてみていると紀伊山周辺は水に対する信仰が弁才天や天之水分大神として根付いていることに気付く.

紀伊山系周辺には紀ノ川という大河があるためか,紀ノ川周辺以外では水が手に入りにくかったためか,それとも水とされる何か別なものがあったためか,考えさせられるところである.


大寺縁起絵巻 巻上

大寺とは大阪・堺市の開口神社境内にあった神宮寺の通称とのことである.

この絵巻は絵:土佐光起,詞:近衛基熙という素晴らしい絵巻であった.

開口神社といえば,昨年の旅で立ち寄らせていただいた.

神宮寺の形跡を探せばよかったと思う.


住吉物語絵巻 巻下

住よし物語

住吉物語は枕草子や源氏物語の中にも登場する最古の物語の一つではあるが,今伝わっているのは鎌倉時代初期の改作だそうである.

物語の概要を見る限りはシンデレラの日本版といったところである.

途中で姫君が住吉に身を隠したことから物語のタイトルがつけられたとされている

しかし,現在は長谷寺観音のご利益により,姫君が幸福になったとされているところが住吉明神の功徳であったところが改作されたためではないかという説もあるそうだ.

この問題は伊勢物語のタイトルの謎に通じるのかもしれない.

詳しく知りたいところである.


善女竜王像

宝珠の載る盤をもち,裙裾からは竜の尾がのぞいていることから,竜王であることは間違いない.

空海が神泉苑にて雨乞いを行ったときに出現した姿という.

その名前から女性の姿を想像していたが,男性の姿をしている.

実際に見てみなければ分からないものである.


倶利伽羅龍剣

請雨経法道場指図

倶利伽羅龍剣は弘法大師空海が神泉苑での雨乞いで用いた宝物という.

請雨経法道場指図は三宝院権僧正・勝覚を大阿闍梨として請雨経法を行った際の指図である.

雨乞いの儀式が国家プロジェクトとして執り行われ,それに関わる品々が今に伝えられているということからも,当時における重要性が感じられる.


春日龍珠箱

龍の持つ宝珠を納めた二重箱で外側の箱の蓋裏には貴人姿の八大竜王が,内側の箱の蓋裏には竜の姿の八大竜王がそれぞれの蓋裏と対応した構図で描かれている.

中世には春日信仰と龍神信仰が習合していたそうで,外箱には春日山や春日社の五神などが描かれていながら,室生寺に伝来したというから面白い.


宝珠台

一方は聖徳太子が勝鬘経を講ずる場面,もう一方は石清水八幡宮が描かれている.

宝珠と何かしら関係があるのだろうか,興味深い.


弘法大師御遺告

弘法大師空海が入定の六日前に門弟に授けた二十五個条の遺誡とされているが,現在は偽撰説が有力とのことである.

今回,出陳されているのは盛紹の書写したものである.

東寺の座主が如意宝珠を護持すべきことなどが書かれているそうで,偽撰であれば,内容から誰が何のためにこの弘法大師御遺告を作成したのかわかるかもしれない.


彦火々出見尊絵巻 巻下

海幸彦と山幸彦の神話が描かれている.

日本神話には他の神話の例にもれず,理不尽な話が多いけれども,個人的には一番理不尽ではないかと思う.

天稚彦図屏風

天稚彦物語絵巻 巻上

海龍王・天稚彦と長者の娘の婚姻譚を通して七夕の由来を物語っているそうである.

天稚彦というと,日本神話の大国主の娘と結婚した天国津玉神の子を思い出してしまうのだが,名前の他にも共通点があるのだろうか.


亀流水蒔絵湯桶

ここで描かれる亀は甲羅に藻が付いた蓑亀である.

藻が付くほど長い年月を生きた亀で神獣のように長寿のしるしとして喜ばれた図柄だそうで,この湯桶も結婚式のようなめでたい席で使用されたのではないかということである.

私は蓑亀のことを知らなかったが,きっと一般常識なのだろう.

勉強になる.


四天王寺住吉大社祭礼図屏風

四天王寺と住吉大社を一つの屏風に描いている.

住吉大社近くの住吉の浜では禊をする人が描かれていたり,四天王寺の亀井堂では亀の顔を象った流口から水が流れ出している.

このようなところから,それぞれの寺社の水に関する信仰が伺えるそうだ.

昨年の秋には両寺社を訪れたこともあり,ぞれぞれの寺社内の建物の配置が記憶通りか確かめてしまった.

四天王寺の亀井堂はよく見てこればよかった.

水が流れ出ていたとは思うが….
下写真は四天王寺の亀井堂である.

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以上が概要である.

この展覧会はノーチェックだったが,非常に勉強になったし興味深いことばかりで行けてよかったと思う.

サントリー美術館はこの展覧会の水の信仰のような面白いくくりでテーマを決めておられて,一味ちがった鑑賞ができるので楽しい.

松涛美術館と似ているだろうか.

2016年の展覧会も楽しみである.


追記

2015年末の上記訪問時に鈴木其一の朝顔図屏風についてスタッフの方にお尋ねさせていただいたが,まだ,詳細が決まっていないとのことであった.

あまりに嬉しくて開催して頂けることのお礼を述べさせていただいたから,テンションは高かったに違いない.

そもそも,お礼を言うような立場でも何でもないのだが.

既に,朝顔図屏風については質問等されている方が多くいるようで注目度は高いのだろう.


by Allegro-nontroppo | 2016-01-12 00:40 | 博物館
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