この特別展は足利市立美術館,DIC川村記念美術館,北海道立函館美術館,山寺芭蕉記念館での開催を終えているということである. 以下,各作品の感想である. 序章 日本神話と縄文の神々 蛇を戴く土偶 頭上に戴く蛇は脱皮を繰り返すことから不死の象徴とされていたと考えられている. 一方でこの土偶も例にもれず女性を表していることから,不死を表しているだろう. また,この土偶の左目の下には線が施されており,これは涙とみることができ,ネリー・ナウマンは「泣きいさちる神」スサノヲの原型を読み取ったという. スサノヲの神としての機能は既にこの時にできあがっていたということだろうか. 蛇文人面深鉢 蛇文深鉢 破砕された人面の造形 食物を煮炊きするための土器の口縁部に人面がついているが,たいてい人面部分が分離し,本体は人為的に破壊されているという. 土器は食べ物を恵む女神と見立てられ,それを呪術的に破壊することによりさらなる再生を祈ったものと思われるそうだ. 解説にあった通り,記紀に登場するオホゲツヒメやウケモチノカミを想起させる. 先にも書いたが,オホゲツヒメやウケモチノカミの神としての機能ができあがっていたとすれば,なかなかおもしろい. 第一章 神話のなかのスサノヲ 伝素戔嗚命・稲田姫命像(複製) 松江市八重垣神社本殿内の板壁に描かれたものである. 数年前,八重垣神社を訪れた際に実物を見たということで思い出深い. 下総東葛飾郡院内八坂神社素戔嗚尊像図 スサノヲは樹神でもあるということで,二本の巨木とスサノヲが一体化して描かれている. 体に植物が生えているといえば,ヤマタノオロチを思い出してしまう. スサノヲとヤマタノオロチに同じ機能が備わっているという点が気になる. 素戔嗚神 稲田姫神 脚摩乳神・手摩乳神(三幅) 狩野時信 奥絵師である狩野時信が描いたということであるが,日本の神を描いた例は他にもあるのだろうか. 鳥髪峰写生図 八雲華渓 鳥髪峰(船通山に比定される)から流れる川(斐伊川)をヤマタノオロチに見立てている. ヤマタノオロチは斐伊川の氾濫を示しているともされているので,おもしろい. 私のような素人にも不穏な気配を感じられるのが素晴らしい. 大日本名将鑑 素戔嗚 月岡芳年 素戔嗚尊出雲の簸川上に八頭蛇を退治し給ふ図 月岡芳年 明治初期の浮世絵師・月岡芳年にはいくつか有名な作品があるが,スサノヲの図としてよく例に挙げられるという点でも有名な作品だと思う. どちらも荒れ狂う風や波を感じられるすごい作品である. 第二章 スサノヲの変容 神像群 日御碕神社宮司小野家に存在した邸内社より発見されたということである. 天神像や女神像,僧形像,そして出雲神社の神使であるウミヘビ像で構成されているのがおもしろい. 日御碕神社は日沈宮や神の宮など他と違った神社であるということや出雲大社との関係等,気になる神社である. 月読尊像 スサノヲとツクヨミは同一の働きをもっていると解説にあったが「アマテラス及び神宮考⑫ -珍説披露(2)-」に書いた私の珍説・ツクヨミとスサノヲのエピソードの入れ替えは真実味を帯びるのではないかと思う. 第四章 マレビトたちの祈りとうた 熊野牛玉宝印版木 明治時代~大正時代の熊野本宮大社の牛王宝印の版木である. 熊野三社のうち他の牛王宝印はいただいたのだが熊野本宮大社については持っていないので,いずれ熊野に行くことがあれば是非いただきたい. 飛白書三社宮号及び三社託宣 木食知足 飛白書というものを初めて見たのだが解説にあったように,呪術性を感じる文字である.
大弁財天功徳天の御化身一筆龍王の図(鎮火一筆龍王の図) 高野山法印大圓老師 一筆書きで描いたとは思えないほど,リアルで勢いのある龍王である. 第六章 スサノヲを生きた人々―清らかないかり 日記(真の文明は…) 田中正造 「真の文明は山を荒らさず村を破らず,人を殺さざるべし.古来の文明を野蛮に回らす.今文明は虚偽虚飾なり,私怨なり,露骨的強盗なり」 最近,私の周りで環境を守りたいなどという話を聞く機会が多いが,本当にそう思っているのかと疑ってしまうような軽い言葉が多く,また,何も考えずにとにかく響きのよい言葉を叫んでいるのだろうなとがっかりさせられることばかりであった. そんな中でこの言葉は胸に迫るものがある. 河川図(5)関東地方河川図 田中正造 河川図(12)渡良瀬川流域図 田中正造 田中正造という人は足尾銅山鉱毒問題関連でしか知らなかったのだが,河川水害対策にも取り組んでいたということを知り,偉大さを思い知らされた. 本当に民のために働いていた方ということを知れてよかった. 菌類彩色図譜 南方熊楠 南方熊楠は膨大な菌類の図譜を残したということで,少々,菌の勉強をしていた者としては非常に興味深く見させていただいた. 「すさのを」詩稿 折口信夫 折口信夫については勉強が足りないので,詩のことなどはほとんど知らなかったのでまた興味深く見させていただいた. 第七章 スサノヲの予感 第7章では現代作家の作品をとりあげている. 現代作家については全く分からないので,インパクトのあった作品について感想を書いておく. かきつばた抽象 長谷川沼田居 長谷川沼田居という人は書画家でありながら,両眼を失明し摘出したそうだが,その後も盲目でありながら筆を折らずに画家としてあり続けたそうである. この作品は盲目となった後に手掛けられた作品である. 作者は完成した作品を見ることはかなわないというのになぜ書き続けることができるのか…,その境地は私には計り知れようもないが,インパクトのある作品であった. 八拳須 佐々木誠 スサノヲが母イザナミを慕い,顎鬚が胸に至るほど大人になっても激しく泣き続けたという神話をモチーフにした木彫りの作品である. このスサノヲは記紀とは異なり静かに泣いているようにみえる. 確かにこのような瞬間もあったのかもしれない. また,スサノヲの髭は蛇をも表しているそうである. また背後にまわるとこのスサノヲ像は洞になっており,そして鳥居が置かれている. スサノヲという存在について考えさせられる作品である. まいか 栃木美穂 木組みから無数につるされた長細い麻布に囲まれた空間には四季の植物を塩で封じた容器が四つ置かれている. 香りまでもが作品なのである. 普段,香りのよいものを身に着けたりしているが,作品としてとらえたことはなかった. しかも,香りを体験する空間を設定することで,いつもより香りに集中できるのかもしれない. 麻布で作られた空間は神秘的でもあった. 何かの神事を行っているようにも感じられる瞬間でよい体験をさせていただいた. あめのうた タカユキオバナ 鈴,剣,鏡が無数につるされた空間に水晶が一粒ずつ入った香炉のようなものが脇にいくつも並べられている. この水晶にはアルファベットを一人一人が拾い上げることにより,「うた」をつくっていくという作品である. 私も一文字参加させていただいた. 最終的にどのような「うた」になったのか気になるところである. 以上が各作品の感想である. 訪れるまでは,スサノヲをモチーフにした作品が美術的に鑑賞できるだけかと思っていたが,スサノヲのみならず,日本の神々についても考えさせられる構成で非常に楽しめた. 現代作品にしてもとっかかりやすく,本当に行ってよかったと思う. 巡回展と言えば,都内であればトーハクや江戸東京博物館のような大きな博物館で大きな特別展を開催して巡るイメージがあったが,博物館の規模が大きくなくても,ポイントを押さえた興味深い巡回展でも満足度は同じくらい高いものだと思わせてくれた. 今回のようなテーマだと,規模の大きな特別展は難しいだろうから,それでも巡回展として開催されたのは意義深いと思う. 今後にも是非是非期待したい. この特別展の図録を購入したのだが,300ページほどもあり,解説なども読み応えがありそうである. 小中学生向けガイドブックもついてくるのだが,こちらも分かりやすくまとめられていて,大人の私としても嬉しい.
by Allegro-nontroppo
| 2015-09-14 00:16
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