今年,日本からは「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業」が世界遺産として登録された. また,2017年の世界文化遺産登録を目指す候補として、福岡県の古代遺跡「宗像・沖ノ島と関連遺産群」が選ばれた. 他に,「北海道・北東北を中心とした縄文遺跡群」,「百舌鳥・古市古墳群」及び「金を中心とする佐渡鉱山の遺産群」が2017年審議に向けた推薦候補であったが,2018年審議以降の推薦となった. 公益社団法人 日本ユネスコ協会連盟のHPによれば, 世界遺産とは、地球の生成と人類の歴史によって生み出され、過去から現在へと引き継がれてきたかけがえのない宝物です。現在を生きる世界中の人びとが過去から引継ぎ、未来へと伝えていかなければならない人類共通の遺産です。 世界遺産は、1972年の第17回UNESCO総会で採択された世界遺産条約(正式には『世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約』)の中で定義されています。 とのことである. 「世界遺産としての価値が下がるので,そうそう推薦するのもどうか」というような意見も耳にするが,そのような方たちは世界遺産を観光すべき遺産と勘違いされているのかもしれない. 未来へ伝えていくべき遺産が今,登録されている遺産だけだとは私には思えない. さて,日本の世界遺産については常々,疑問があった. 何故,古いものを推薦しないのだろうという単純なものである. 自然遺産を除けば,最も古い歴史を持つ文化遺産は日本で初めて世界遺産として登録された「法隆寺地域の仏教建造物」である. 飛鳥時代以前の遺跡・遺構はたくさん発見されている. 法隆寺のように建築物として,明確に残っているわけではないが,「古都奈良の文化財」も平城宮遺構が含まれているのである. 「メンフィスとその墓地遺跡 - ギザからダハシュールまでのピラミッド地帯」が登録されているのをみるにつけ,日本の古墳群は未来に残す価値がピラミッド群より下がるのであろうかなどと考えてしまう. もちろん,大王墓など皇族が被葬者とされる古墳は内部調査不可なので,これが変わらない限りは難しいのだろうかとも考えていた. そのような中で2017年推薦候補となった4つの遺産群の内,3つが古墳時代以前の遺産群ということで気になっていたのだが,選ばれたのは「宗像・沖ノ島と関連遺産群」ということで,ついに日本の世界遺産の時代上限が更新される日がきたのかと期待している. 沖ノ島は島全体が御神体であり,男性は年一回の上陸(ただし200人程度)が許されるが,女人禁制という神宿る島であり,宗像大社沖津宮が所在していること知られている. また,4世紀後半から9世紀後半にかけての祭祀遺構・遺物が多数発見されており,これら関連遺物は全て国宝指定されている. 倭国,ヤマト王権そして朝廷が朝鮮半島や中国大陸わたる際の航海の無事を祈り,また日本へ帰ってきたお礼参りのための祭祀と考えられており,中国・朝鮮製品のみならず,ペルシャ・サーサーン朝製と見られるガラス椀の破片までもが出土遺物に含まれる,まさに海の正倉院と称されるにふさわしいし島である. また構成資産とされている宗像大社,沖津宮・中津宮・辺津宮はそれぞれ宗像三女神,田心姫神・湍津姫神・市杵島姫神を祀っている. 宗像三女神は記紀・天照大御神と素戔嗚命の誓約によって生まれた神であり,沖ノ島祭祀からも分かるように海上・交通の守り神とされてきた. このように沖ノ島含む玄界灘や宗像地方を支配し,宗像三女神を祭神とする祭祀を行ったのが宗像海人とも言われる宗像氏である. 構成資産である新原・奴山古墳群は宗像氏関係者が埋葬された推測される. 天武天皇妃の一人,尼子娘は宗像氏であり,当時,天皇に妃を差し出すことのできる力があったと推測できる. ちなみに尼子娘の産んだ皇子が高市皇子である. 以上が「宗像・沖ノ島と関連遺産群」である. 日本の世界遺産は観光地化されていくことから,基本的に上陸が許されない,上陸しても島内の「一草一木」も持ち帰ることはできない,海上からでも沖ノ島に関して見たことは決してもらしてはいけないという「お言わずさま」の伝統をどのように守っていくのかというのは特に重要な課題となっていくだろう. しかし,日本の根幹部分が形成された4世紀の遺跡を世界遺産として推薦するという日本の決定を喜びたいと思う.
by Allegro-nontroppo
| 2015-08-09 20:46
| あれやこれ
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