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大地図展ーフェルメールも描いたブラウの世界地図ー@東洋文庫ミュージアム

地図を楽しむ方は多いらしい.

知人の話を聞いていると,行きたい先の地図を眺めて,観光したつもりで楽しんだなど,想像力をフルに使っておられて,なんとも羨ましい楽しみ方をされておられる.

斯く言う私も,やれキトラ古墳と藤原京の位置関係だとか,あの神社とこの神社の方角など気にして地図を眺めないこともないので他から見れば同じ人種と思われているだろう.

とは言え,私の場合,地図と言えば,初めての場所を訪れる際に使用するパターンをまず思い浮かべるので,基本的には実利的な使用方法で接する機会が多いのである.


前置きが長くなったが,大地図展―フェルメールも描いたブラウの世界地図を見に,東洋文庫ミュージアムに出かけてきた.

単純にたくさんの地図が並べてあるのだとしたら壮観だろうなというノリで出かけたのだが….

ちなみに大地図展の「大地図」とは大地図帳のことで,たくさんの地図で「大地図」と言っているわけではない.

私の勘違いである.

今回の訪問時にはMAの方による展示解説が行われていたのでついて回ることにした

では,以下詳細.


ライマン・ホームズ航海日誌

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アメリカ捕鯨船「ジョン・ハウランド号」の水夫,ライマン・ホームズの航海日誌である.

左下のクジラのヒレはその日捕獲した頭数を表している.

その他にもクジラの絵が描かれていたり,たのしい日誌である.

このページの1841628日にはジョン万次郎を含む5名の漂流者を救出した旨が書かれているそうで,貴重な一次史料である.

私の歴史好きは近年,奈良時代以前に重点を置いているため,まず一次史料というものにお目にかかることがない.

もしも,奈良時代以前の一次史料が見つかることがあれば,いろんな謎が解明されるはずであるが,さすがに難しいだろうなとも思う.


モリソン書庫

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そもそも,東洋文庫はタイムズ紙で働き,中国駐在のモリソン氏が駐在中に蒐集した書籍等を帰国の際に一括で岩崎久彌氏が買い取り,そこに久彌氏が既に持っていた書籍等を合わせてスタートしたらしい.

買い取りには大英博物館なども手を挙げたようだが,一括で購入するること(とんでもない値段だったようだ)や誰でも読めるようにすることなどの条件が合わずに三菱の創始者である岩崎弥太郎氏の息子である久彌氏が購入することになったということだ.

東洋文庫は現在,世界5大東洋学研究図書館に数えられているという世界に名だたる図書館とのことである.

この世界5大東洋学研究図書館・東洋文庫の基礎となったモリソン書庫は図書館の一部のように展示されている.

本好きであればワクワクする光景である.

モリソン書庫の書籍にはモリソン書庫のラベルが貼られているそうである.


国宝・古文尚書 7世紀 書写

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古文尚書は古代中国の歴代の王たちの言葉を集めたものとのことである.

解説によれば,この古文尚書には「ヲコト点」などの訓読点が残されている.

当時の日本人がどのようにこの尚書を読んでいたのかを研究するための重要な資料とされている.

また,裏面には室町時代の文が書かれており,この段階では古文尚書が裏面となっていたようだ.

昔は紙が非常に貴重であった証拠である.


東方見聞録

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マルコポーロの東方見聞録は様々な言語に翻訳されて出版された.

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上記が初めて出版されたヴィネツィア刊.

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初版後,300年経って,東京で刊行されている.

マルコポーロの時代,地球上にもまだ見ぬ世界が広がっていた.

西洋人にとっては東洋,東洋人にとっては西洋へと旅することのできる人間は非常に少数であっただろう.

その分,夢みることができただろうことには自由を感じる.

私が当時の人間であれば,日本古代史ではなく西洋に興味を持っていたかもしれない.


アジア図

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ブラウの色鮮やかなアジアの地図である.

上部には各港の様子,左右には各国の人々が描かれている.

タペストリーのように使われていたのかもしれない.

地図はと見てみると,日本列島には北海道がないし,朝鮮半島は島のように描かれている.

当時の西洋人の認識が分かって面白い.


北極図

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メルカトル図法で有名なメルカトルの地図とのことである.

北極が岩島として描かれているのが面白い.


東インド諸島図

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こちらもメルカトルの地図である.

右上の商船はオランダとイギリス国旗を掲げている.

オランダとイギリスは胡椒の貿易で激しく対立していたとのことで,このような古地図から当時の世界情勢が分かるのは面白い.

それにしても,メルカトルもこのように色鮮やかな地図を作製したのだなあ.


ブラウの大地図帳

17世紀のオランダは世界の盟主として世界随一の繁栄を迎える.

オランダはその他のヨーロッパの国々とは違い信仰する宗教を強制しなかったために,様々な国々の人々が様々な情報を携え,移住してきた.

オランダではあまり派手なことは好まれなかったために,富栄えた人々がそれを示すために行ったのは豪華な装丁の本を作成することだったという.

このような時代の流れの中でブラウ父子によって作成されたのがブラウの大地図帳である.


大地図帳1巻 北極圏及び北方ヨーロッパ

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大地図帳2巻 ドイツオ及びその隣接地


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大地図帳3巻 ネーデルラント


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大地図帳4巻 イギリス


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大地図帳5巻 スコットランドおよびアイルランド


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大地図帳6巻 フランス


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大地図帳7巻 イタリアおよびギリシャ


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大地図帳8巻 スペイン,アフリカおよびアメリカ


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大地図帳9巻 アジア、およびアジアのなかの中国


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イギリスやフランス,そしてイタリアあたりはもちろんアフリカ大陸もよくみる世界地図と同じような形をしているようにみえる.

翻ってアジアはというと,「アジア図」に比べれば,北海道はあるし,朝鮮半島も半島らしく描かれているが,おなじみの地図とは異なっているように見える.

日本人がほぼ正しく日本列島の形を初めて理解したと思われる伊能忠敬の地図も18世紀のことなので,しょうがないだろうが.

それにしてもこの地図はとてもきれいで眺めているだけでも楽しい.

他のページには下図のような絵もあるらしい.

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行ったことはないが今よりも巨石がよく残っているようにも見える.

フェルメールの絵には下図のように描かれているそうだ.

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中国図

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西洋初の中国地図とのことである.

宣教師のために作成されたということで,教会の場所もきっちり書かれている.

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象や鹿の絵も可愛らしい.

大明地理之図

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中国を中心に日本や朝鮮,琉球そしてベトナムを描いた地図である.

日本より,琉球のほうが書き込まれているのが面白い.

観光ガイドブックの要素を含んでいるようで三国志関連の情報も充実しているようだ.

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現代と何も変わらないなと微笑ましく思う.


以上が個々の展示に関する感想である.

東洋文庫ミュージアムは初めて訪れたが,規模は小さいもののミュージアム自体すら鑑賞できるよう作られており,とても楽しかった.

また,MAの方も親切で個々で質問にも答えてくださり有意義であった.

東洋学とは聞いたことがある程度で触れたことはなかった学問ではあるが,とても面白そうだなと思えた.

今回の大地図展のように東洋文庫ミュージアムにしかできない展覧会がありそうである.

次回は幕末展とのこと.

東洋学からみた幕末というものを知りたくなった.

時間を見つけて,また行きたい.




おまけ

古代史好きには非常に興味深い「広開土王碑拓本」(複製)を見ることができる.

実物大なのであろうか,かなりのサイズである.

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by Allegro-nontroppo | 2015-07-26 21:56 | 博物館
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