今回は約1月前に訪れた特別展についてまとめておく. 一番好きな絵は何かと問いかけられたならば,迷わず尾形光琳筆「燕子花図屏風」と答える. 「燕子花図屏風」を初めて見た時の,あの表現できない感情を超える作品にはいまだ出会ったことない. とは言え,しばらく御無沙汰ではあった. 「燕子花図屏風」は現在,根津美術館は所蔵しており,毎年,燕子花の季節には公開してくれる. だいたい,GW前後の公開期間である. 今年は数年ぶりに見に行こうと思っていたが,5月いっぱいまで公開してくれていると勘違いしていた. GW翌週にそうではないことに気づき,慌てて休みをとって見に行ったのである. 今年は5月が忙しい時期でなくて本当によかった. 毎年,根津美術館は「燕子花図屏風」を公開してくれるけれども今年は特別である. 尾形光琳300年忌記念特別展「燕子花と紅白梅」―光琳デザインの秘密―と題してこちらも尾形光琳筆「紅白梅図屏風」を「燕子花図屏風」と並べて展示するというのだ. 琳派最大の巨人,尾形光琳の作品は海外でも人気が高く,かなりの作品が国外に流出してしまっている. 日本国内にあれば国宝指定されたであろう作品もごろごろあるという. そのような事情もあって,光琳作品の中で国宝指定されているものといえば,「燕子花図屏風」と「紅白梅図屏風」の2つだけだ. ちなみにこの二作品が同時に展示された最後の記録は56年前だという. これを逃したら,へたすると生きているうちに2つ同時に見ることは叶わないかもしれないという危機感から出かけることにしたのだ. ちなみに「紅白梅図屏風」はMOA美術館所蔵品であり,毎年2月ごろ同美術館で公開されているようだ. 今年は根津美術館と同様,尾形光琳300年忌記念特別展「燕子花と紅白梅」として,2作品を同時公開したようだ. さて,以下,各作品の感想である. 第一章 燕子花図と紅白倍図―「模様」の屏風の系譜 蔦の細道図屏風 伝俵屋宗達筆,烏丸光広賛 この屏風,右隻と左隻を入れ替えても絵がつながるようになっているということで,構図が循環するようにデザインされているそうだ. 現代アートに通じるものがありそうである. 実際には賛があるから,入れ替えはできないだろう. その賛によれば,伊勢物語「東下り」の一場面ということである. 燕子花図屏風 尾形光琳筆 「燕子花図屏風」を見るのは何回目だろうか. さすがに初見の感動を再び味わうことはできないが,それでも飽きることはない. ところで,この「燕子花図屏風」には同じパターンが繰り返されているということは,これまでの展示解説などで知っていたが,具体的にどの部分かというのがいまいちよく分からなかった. しかし,今回は具体的に解説があったので,初めてなるほどと思うことができた. 新しい発見は何度見てもあるものである. この作品も「蔦の細道図屏風」と同じく伊勢物語の「東下り」に登場する「から衣きつつ慣れにしつましあれば はるばる来ぬるたびをしぞ思ふ」からと言われている. 紅白梅図屏風 尾形光琳筆 今回の特別展のウリは「紅白梅図屏風」を「燕子花図屏風」と並べて見ることができるというものであったけれども,あの混雑ではとても無理であった. 「紅白梅図屏風」がどのようなものか,初めて知ったのはテレビだったと思うが,この構図には度肝を抜かされたのをよく覚えている. 屏風などは狩野派絵師のもの程度しかよく知らなかったのである. 中央の流水を黒で描き,S字の波が金色というのは衝撃としか言いようがない. 両サイドの梅は光琳梅と呼ばれるデザインの花が咲いており,その幹や枝は琳派特有のたらしこみで描かれている. まさに,光琳にしか描けない屏風と思える. 孔雀立葵図屏風 尾形光琳筆 孔雀の背後の梅は「紅白梅図屏風」の白梅を思わせる光琳らしい梅である. ところで去年の多分,7月ぐらいに花をつけたある植物をみかけたのだが,名前を知らないので気になっていた. 今回この屏風を見て,それが立葵であったことが分かった. 言い訳させてもらえば本などで名前は知っていたのだが,実物はそのとき初めて見たのだ. 屏風の立葵の花はかなりデフォルメされているのだが,それでもあの時の花だとはっきり分かるのは単純にすごいと思う. 夏草図屏風 尾形光琳筆 この屏風はやはり画面の対角線上に流れるように夏草を配置しているところである. この屏風には先の展示にも出てきた立葵や燕子花も配置されている. 立葵も燕子花もこちらの屏風のほうが写実的に描かれている. 特に燕子花は意識して「燕子花図屏風」の花弁を大きく,花のつく位置を低く描いていたのだなと思わせてくれる. 第二章 衣装模様と光悦謡本―光琳をはぐくんだ装飾芸術 燕子花図(小西家文書) 尾形光琳筆 小西家文書とは光琳の息子が養子に行った小西家に伝わった尾形光琳関係の資料ということである. この燕子花図は「燕子花図屏風」とよく似た大ぶりの花の形をしている. しかし,葉はたらしこみで彩色されており,花弁も「燕子花図屏風」の群青とは違い,赤みがかった紫色をしている. どのような目的で描かれたのか気になる作品である. 雁金屋衣装図案帳(小西家文書) 尾形光琳の生家である雁金屋は後水尾天皇の中宮・東福門院の御用を勤めるほどの呉服屋であったという. その雁金屋の図案ということで,光琳のデザイン性が育まれた源の一つであると思うと非常に興味深い. 扇面数貼付屏風 俵屋宗達筆 この作品は本当に宗達らしいと思う. もしかしたら,以前に見たことがあるかもしれない. 今回の扇の絵は草花ばかりだが,扇に源氏物語の一場面等々が描かれたもの(宗達の作品ではなく工房の作品かもしれない)も見た記憶があるので,得意としていたのかもしれない. 雅な作品である. 第三章 団扇・香包・蒔絵・陶器―ジャンルを超える意匠 白梅図香包 尾形光琳筆 蔦図香包 尾形光琳筆 仙翁図香包 尾形光琳筆 これらの香包は広げた時はもちろん,香を包んでいるときや包を開いていくときに見える構図まで意識して描かれているらしい. 光琳の器物関連の作品には残念ながら国宝指定はないが,本人は得意としており,また当時の人々も評価していたということがよく分かる. 銹絵梅図角皿 尾形乾山作・尾形光琳筆 銹絵菊図角皿 尾形乾山作・尾形光琳筆 琳派に関する展覧会で行く前から楽しみしてしまうのは尾形兄弟の合作である. 尾形乾山は光琳の弟であるが,ついつい兄関係で苦労したのではないかと思ってしまう. しかし,光琳は乾山に絵の手ほどきをしたのではと思わせる帳面(見た記憶はあるのだがはっきり思い出せない.もういちど見たいものだ.)も残っているし,合作も相当数存在しているので,仲のいい兄弟であったのだろう. そういうことを想像しながら鑑賞できるのが合作のいいところだなと思う. その他,燕子花の季節に根津嘉一郎が催した茶会で使用した茶器や殷時代の青銅器などの展示もあったが,多少展示は入れ替わっているにしても毎年のことなのでざっくりと見て回った. 当日の混雑具合は入場時に並びはしなかったが,美術館は大混雑であった. 先日の鳥獣戯画(記事はこちら→)と比べると,鳥獣戯画の方が館内は整然としていたと思う. もちろん,こちらはメインが屏風ということもあって近くでみるより,少し離れたほうが構図を見ることができるということもあったであろう. 絵巻は最前列で見ないと見えないので仕方ない. 根津美術館はガラスケースを定期的に磨いてくださっているようで,気持ちよく作品を眺めることができるのが素晴らしい. こういった努力をどこの博物館・美術館でもやってくれたらと思わずにはいられない. 作品群を見終わったあとは庭園に出て,本物の燕子花を眺めた. 最後に記事の最初に挙げたレプリカの写真を撮らせて頂き,図録を購入後,帰宅した. しかし,今年は尾形光琳300年忌の年であり,琳派発祥400年にあたるとはすごい年だなと思う.
前回,「燕子花図屏風」を見に行ったのは,メトロポリタン美術館から「八橋図屏風」がやってきた「KORIN展」だったけれども,そのとき,図録を購入していなかったので同時購入させて頂いた. 「八橋図屏風」は本当は2011年に根津美術館で公開されるはずであったけれど,震災の影響で,翌年に延期されたのをよく覚えている. あれから,3年,長いのか,短いのか.
by Allegro-nontroppo
| 2015-06-15 19:23
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