特に更新するような出来事がなかったのなら,それでもよいかとは思うが,いくつかの博物館・美術館を訪れたので記録しておかなければ忘れてしまう. 訪れた順番に記事にすべきとは思うが,ここは5月29日に訪れた,特別展「鳥獣戯画─京都高山寺の至宝─」から記録することにする. 鳥獣戯画は数年にわたる本格的な修復を終了後,初めて京都で公開されたのが昨年のことだ. この公開中に奈良に行く機会があったので,寄るべきかとも思ったのだが,東京でも近々公開されるに違いないと信じて見送った。 読み通り,今年,東京国立博物館にて公開されることとなったので,前売り券を購入することにした。 京都ではとんでもない行列ができたという話は耳に入ってきていたので,東京でも同じようになるだろうとは覚悟していた. 東京での公開時期は京都での公開時期より気候がずっとよいから待ち時間はともかく,大丈夫だろうと思っていたが,今年の5月はいつにもまして暑かった. 京都は寒さとの戦いで東京は暑さとの戦いとはよく言ったものだ. 今回の特別展は全場面を見ることができるというのが売り文句だが,実際には前半部分と後半部分を前期後期に分けて公開するので,1回で全ての場面を見れるというものではない. 行列ができるほどでなければ2回行くことも考えたが,3時間以上待つこともあると聞いたので,早々に諦めて,有名な部分のある後期に訪れることにした. GWと合わせて有給休暇を消化する同僚が多かったのだが,そこはカレンダー通りの休暇で我慢し,5月29日の平日に休みをとって出かけることにした。 当日は雨で,気温もここ数日の中で圧倒的に低かった. 13時過ぎに到着し,外での待機時間は40分ほどであった. 雨とはいえ,風もなく,下手に晴れているより過ごしやすかったと思う. まず,高山寺伝来の至宝や高山寺中興の祖明恵上人関連の展示を見学した. こちらは,待ち時間もなく,余裕をもって展示を見ることができる. その後,ついに鳥獣戯画関連の展示へ. このあたりから,前列で見学したければゆっくりとしか前に進めなくなる. まず,鳥獣戯画が生まれた背景に関する展示があったあと,鳥獣戯画の断簡,そして丁巻,丙巻,乙巻,そして甲巻の順で展示されている. ちなみに甲巻のためだけの待列も形成されており,16時ごろ並んで18時半にしか見れないというとんでもない行列であった. 以下,印象に残った作品の感想である. 第1章 高山寺伝来の至宝 春日大明神像・住吉大明神像 高山寺では「栂尾開帳」という春日・住吉両明神の神影を拝する儀式が継承されてきたそうで,その神影が出品されていた. 実際の儀式がどのように行われているか興味がある. また,この神像の写しも二品出品されており,このうち一品は仁和寺に伝わったものというから,さらに面白い. 神仏習合と簡単に言ってよいかは分からないけれども,その名残とも言えるのであろうか. 第2章 高山寺中興の祖 明恵上人 子犬 日本における近代以前の彫刻は宗教的な意味合いを持ったものがほとんどだそうだが,この子犬からはそのようなものは感じられない. 現代の日本人も大多数が好ましいと感じるようなかわいらしい子犬で,これを明恵上人も愛でていたと思うと親近感が湧いてくる. 十六羅漢像 この展示の手前にある十六羅漢像のグループには,当時の日本ではあまり描かれなかった栗鼠がよく描かれており,この作品もその一例だというコラムのようなパネルがあったので,よくよく探してみた. 栗鼠というとシマリスを想像してしまうけれども,こちらは森林などにいる野生の栗鼠っぽい. 随分間抜けな感想になってしまった. 白光神立像 白光神はヒマラヤを神格化した神で,体も衣も白一色なのは永遠の雪をたたえたヒマラヤの雪を表しているのだそうだ. 姿かたちはまるで仏様のように見えたので,てっきり仏像と思ったのだが目録を読み返すと神像である. こちらも高山寺蔵であるが,高山寺には神像がなんて多いのだろうと思わずにいられない. 肝心の白光神立像であるが,白一色というのは見慣れないせいもあるのか,非常に神々しく感じた. 色もよく残っているので尚更である. 善財童子絵 昨年の国宝展で善財童子像を見てから,善財童子と聞くとついつい目がいってしまう. 善財童子関連の絵や絵巻は今回もいくつか出品されていたが,どれも善財童子の一生懸命さが伝わってくるようであった. そういうものが後世まで伝わるのだろう. この善財童子絵はかわいらしいタッチで善財童子のみならず,画面にいるすべての神仏たちの表情がどこかやさしいように感じられる作品であった。 華厳宗祖師絵伝 元曉絵 先に記した善財童子絵もそうだが,明恵上人は華厳宗とも何かしら関連があるらしく,それに関する作品もいくつか出品されていた. 後期展示では華厳宗祖師絵伝のうち,元曉絵(義湘伝は前期のみ)を見ることができた. 元曉の事績について,何も知らない私にはうってつけの絵巻であった. ただ,元曉より勅使のほうがすごいななどとしょうもない感想を抱くようではどうしようもないだろう. 第3章 鳥獣戯画 年中行事絵 展示されていた場面は賀茂祭の行列の様子ということである. 風流傘の飾りものは鳥獣戯画のモチーフとなったかもしれないとのことである. 本当に小さいものではあるがとても可愛らしい. 鳥獣戯画 丁巻 鳥獣戯画の各巻物は順路通りに廻ると丁丙乙甲と逆から見ていくことになる. 丁巻はすべて見終わってから考えると明らかに他の巻とはタッチが違い,別の人物が書いたのであろうと推察できる. そのタッチは他の巻より暖かみがある. また,この巻の特徴と言えば人物が主体となって描かれていることだろう. さらさらと簡単に描かれているようにも見えるのだが,それでいて完成度が非常に高いとは素晴らしい. 鳥獣戯画 丙巻 前半に人物戯画で後半に動物戯画が描かれているこの丙巻は,今回の修理により,料紙の表裏に描かれていた人物戯画と動物戯画を二枚に分けてつなぎ合わせたという発見があったとのことだ. そのような技術が昔の日本にあったのかと驚くばかりである. 今回,本物が展示されていたのは動物戯画の部分であったが,甲巻と似ていて,擬人化された動物による競馬や祭礼などが描かれており,とても楽しい. 蛙などは甲巻とも似ているように思えるが,作成年代からすると甲巻と同一人物が書いたものではないようだ. モチーフはよく似ているようにも思うが,そのあたりは今後の研究が待たれるところであろう. 鳥獣戯画 乙巻 他の巻と比べて物語性がなく,動物図鑑のような乙巻である. 龍や獅子など空想上の動物も描かれている. 虎も描かれているのだがキトラ古墳や高松塚古墳の白虎を思い出させるようなスリムな姿である. 親子の動物たちも描かれており,ほのぼのとしている. 鳥獣戯画 甲巻 鳥獣戯画と言えばやはり甲巻であろう. 擬人化された動物たちによる遊戯や儀礼を描いた巻である. ところで何故,後期の展示にこだわったかというと,もっとも鳥獣戯画で有名な場面である,「猿を追いかける兎」や「兎と蛙の相撲」が後期展示で見られるからだ. とにかく初めて見た印象は紙幅が想像より大きいなということである. 従って,それぞれの絵自体も想像より大きいわけである. 動物たちはいきいきしていて,いまにも紙から飛び出してきそうだ. 実際に鳥獣戯画を見てから数日経ったが,いまだにぼんやりしていると,これを見た時のことが思い出されてしまう. 他の巻と比べて,圧倒的にこの甲巻には力があるなと感じられた. 以上が今回の特別展 鳥獣戯画の感想である. 並ぶ時間は長かったし,人も多かったが結果的に行ってよかったと思う. それはそれとして,毎度東京国立博物館の特別展で思うことだが,展示ケースのガラスが汚すぎる. せっかくの展示が台無しだ. 平成館入場口や甲巻の待機列に人員を割きすぎている感があって,鳥獣戯画以外の展示周りは放置されているようにも思えた. 人員が割けないのならそれはそれなりに,ガラスケースを触らないように注意のパネルを準備するなり何かしら対策をとってほしいものである.
by Allegro-nontroppo
| 2015-06-04 01:17
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