各時代の古典を理解すれば,各時代の文化のみならず,政治情勢や民俗,風習などの理解に役に立つと考えているが,長編におよぶことも珍しくない上,現代語ですらなければ平易に読むことは叶わない. そのようなわけで手軽に誰でも楽しめる物語絵を鑑賞させていただこうと出かけたわけである. さっそく,感想を書いておきたいところであるが,その前にお礼を述べておきたい. 前売り券や招待券などは持っていなかったので,受付で当日券を購入しようとしたところ,チケットが余っているからと頂いてしまった. 本当にありがとうございました. いいものを見せて頂いたと思っております. 充実した休日の午後を過ごせました. それでは感想を記しておく. 第1章 物語絵の想像力―<ことば>の不確かさ 雪月花図 冷泉為家 江戸時代 右幅は源氏物語「若菜上」の一場面,左幅は枕草子第二八〇段である. 私は源氏物語と枕草子のどちらとも,きちんと理解しているとはとても言えないが,単純にエピソードとしては枕草子第二八〇段が好きなのでじっと見入ってしまった. 雪の積もった日に中宮定子に「香炉峰の雪」とはいかなるものかと問われた清少納言が白居易の詩になぞらえて御簾をまきあげるというもので清少納言の気持ちがストレートに伝わってくる有名な段ではないかと思う. この絵は巻き上げようとしちる御簾の向こうに香炉峰が見えてきそうな構図が気に入ってしまった. 第2章 性愛と恋―源氏物語を中心に 源氏物語図屏風 岩佐勝友 江戸時代 源氏物語全54帖のそれぞれ象徴する場面を書きだした巨大な作品である. 人物の衣装や調度品などもきらきらしく,源氏物語の前半のイメージとマッチしていた. 私がまず気になったのは「須磨」では雷神が描かれているところである. 今まで見てきた源氏物語絵でこのように雷神が直接描かれているのを見たことはない. また「野分」などの段で風神が描かれているなども見たことない. 江戸時代になると「風神雷神図屏風」に代表されるように雷神・風神の絵が多くなるように思うのでその影響であろうか. 「須磨」以外にも「花宴」で源氏が朧月夜を抱擁するなど,この屏風には新たな表現があるようである. 第3章 失恋と隠遁―ここではない場所へ 伊勢物語 富士山図屏風 俵屋宗雪 江戸時代 今回,琳派作品もいくつも出品されているが,唯一,気に入ったのはこの作品である. 伊勢物語で富士山といえば「東下り」の一節であろうが,この富士山が本当によい. 語彙力が足りず表現できないのが悔しいが,例えば葛飾北斎の富士山とは違うよさがある. 堂々としていながらやさしく見守ってくれそうだ. また,在原業平(本文中は男であるが)は貴族らしい容貌で,表情から富士山に感嘆しているのがよく分かる. 従者は従者らしく,ただし童はついつい富士山を眺めながらといった様子が伝わってくるのも気に入ってしまった. 伊勢物語 住吉の浜図屏風 絵/伝 狩野山楽 賛/伝 松花堂昭乗 桃山時代 この絵は水墨で描かれており,どことなく中国風であるがこの業平(もちろん,本文中は男であるが)も本当に貴族らしい容貌であるために伊勢物語の一場面と分かる. 松花堂昭乗と伝わる賛もあるおかげであろう. 変則的であるがなかなか面白い. 平家物語 小督図屏風 狩野尚信 平家物語 巻六では小督局は高倉天皇の寵姫となったが中宮 建礼門院徳子の父である平清盛に疎まれて隠棲することになってしまう. しかし,小督の琴の音をたよりに天皇の使者が訪ねてやってくるという場面だそうだ. 情景に色彩が使われておらず,水墨技法を使い,隠棲の侘しさを感じさせる. 第5章 荒ぶる心―軍記物語と仇討 曽我物語図屏風 江戸時代 日本三大仇討の一つ「曽我物語」を題材としている. 私は概要程度しか知らなかったのだが,数々のエピソードが屏風内にちりばめられているようである. 知っているエピソードもいくつか見当たり興味深く鑑賞した. 第6章 祈りのちからー神仏をもとめて 伊勢物語 禊図屏風 伝尾形光琳 江戸時代 「恋せじと御手洗河にせしみそぎ神はうけずもなりにけるかな」という歌の場面を表したものである. 私の知る禊のイメージとは異なっているが江戸時代はこのように執り行われていたのであろうか. この絵からはあまり光琳らしさは伝わってこないが,在原業平(もちろん,本文中は男であるが)の背中から,苦悩が伝わってくるようなところは素晴らしい. 以上が印象深かった作品である. 全体を通して感じたのは物語絵については琳派よりも狩野派の方が私の好みかもしれないということである. あまり,狩野派は好みでないと思っていたが新しい発見である. そういえば,「物語絵」をテーマにしているにもかかわらず,土佐派の作品を見かけなかった. それから,桃山時代~江戸時代の作品が多かったのもこの「物語展」の特徴であった. それにしても,今回,出光美術館には本当に久しぶりに訪れることになった. また,興味を惹かれる展覧会があれば,ぜひ訪れたい.
by Allegro-nontroppo
| 2015-02-15 21:05
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