天宇受売と天照大神

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23回「万葉古代学東京講座」に参加した.

今回の演題は「天宇受売と天照大神」である.

講師は「奈良県立万葉文化館 主任研究員」の井上さやか氏である.


今回のお話は古事記の天の岩屋の段から始まった.

古事記概要

アマテラスとスサノオの誓約の結果,スサノオは娘(宗像三女神)を得たことで勝利した.

(何故,女子を得ることが勝者となるのかは記載されていないのでよく分からない)

スサノオは勝ちに乗じてアマテラスの田の畔を壊し,埋め,大嘗をする御殿を汚した().

アマテラスはスサノオの所業をかばう().

しかし,スサノオは馬を残虐に殺し,アマテラスのいる忌服屋にその死骸を投げこみ,それに驚いた天の服織女が死んでしまった.


ここまでで井上氏は下記のようにコメントしておられた.

※1:田を壊すことは農耕民族である日本人にとって最悪の悪行であった.また,現在でも神道における重要な行事である大嘗祭につながる大嘗の御殿を汚したことも,とんでもない悪行と言える.

※2:ここではスサノオの上神として,悪行を言い直し,良い言葉に置き換えることで言葉に力をもたせようとした.


古事記概要

アマテラスは恐れて天の岩屋におこもりになられた.

高天原や葦原中国は真っ暗になった().

万の神の騒ぎ声でいっぱいになり,あらゆる災いが起きたので,八百万の神々が天の安河の川原に集まり,対応を相談した.

オモイノカネの案により,さまざまな儀式をおこなった.

常世の長鳴鳥(鶏)を集めて鳴かせた().

鍛冶師の天津麻羅を探し,伊斯許理度売命に八咫鏡を作らせた().

玉祖命に八尺の勾玉の五百箇のみすまるの珠を作らせた.

天児屋命と太玉命を呼び、雄鹿の肩の骨とははかの木で占いをさせた.

賢木を根ごと掘り起こし,枝に八尺瓊勾玉と八咫鏡と布帛をかけ,太玉命が御幣として奉げ持った().

天児屋命が祝詞を唱え,天手力雄神が岩戸の脇に隠れて立った.

アメノウズメが岩戸の前に桶を伏せて踏み鳴らし,神憑りして胸をさらけ出し,裳の紐を陰部までおし下げて踊った().

すると、高天原が鳴り轟くように八百万の神が一斉に笑った().


※3
:ここで初めて葦原中国が出てくる.

※4:鶏で朝を演出している.

※5:鏡は太陽光をうつすため,太陽神の分身と考えられていた.

※6:古い書物に神祭の形として記載されている.

※7は後ほど.


古事記概要

これを聞いたアマテラスは不思議に思い天の岩屋の扉を少し開け,

「私が岩屋に篭って高天原や葦原中国は闇になっているのに,なぜ,アメノウズメは歌舞をし,八百万の神は笑っているのか」

と問うた().

アメノウズメが

「貴方様より貴い神が表れたので,喜んでいるのです」(10

というと(1),天児屋命とフトダマが天照大神に鏡を差し出した.

鏡に写る自分の姿をその貴い神だと思った天照大神がその姿をもっとよくみようと岩屋をさらに開けると,隠れていたタヂカラオがその手を取って岩屋の外へ引きずり出した.

すぐにフトダマが注連縄を岩戸の入口に張り,

「もうこれより中に入らないで下さい」といった.

こうして天照大神が岩戸の外に出てくると,高天原も葦原中国も明るくなった.


※9
が今回の本題となる.

古事記は漢文体で書かれているが,最古の古事記の写本ではルビなどが省かれ,正確な読み方が分からない部分も多い.

※9の「問うた」は漢文では「内告」と記載されている.

現在の主流では「自」が抜けているとして,「自内告」とし,「内より告りたまはく」としている.

現代的に訳すと「岩屋の中からアメノウズメに問うた」となる.

しかし,現在,最古の古事記の写本やそのほぼ同時期の写本(道果本)ではどちらでも「自」は書かれていないので,そもそも書かれていなかったのではないかと考えられる.

そうであるならば,ここでのアマテラスの言葉はモノローグであるということである.

では※10のアメノウズメはアマテラスのモノローグをどうやって聞きつけて返答したのか.

※7でアメノウズメは神憑りをしている.

この神はアマテラスであり,アメノウズメはシャーマンとして神の言葉を受け取ったということである.

11の「いうと」は漢文では「白言」と記載されている.

古事記においては「詔」:天上から,「問」:上から下へ,「告」:どの神でも使用できるというふうに厳密に使用方法が決まっている.

また,「詔」,「問」,「告」の回答のさいには「答」を使う.

「白言」は全六例見られるが,「白言」単独使用の際は,会話形式をとっていない.

このことからも※9のアマテラスのセリフはモノローグであるという説を補強できる.


ところで日本書紀における※7ではアメノウズメ(天細女命)は「巧作俳優」と書かれているのみで,女陰に関する記述はない.


また,天孫降臨の段においては古事記ではアメノウズメの様子については描かれていないが,日本書記では「天細女乃ち其の胸乳を露わにし,裳帯を臍の下に抑れて,咲噱ひて(12)向ひ立つ」とあり,女陰を露出しているようには思われない.

これらの記述からはアメノウズメにとって女陰の露出が必須ではないのではないかということである.


最後に古事記の※8では八百万の神が笑っているが,日本書紀では「云何天細女命噱楽如此者乎」となっており,アメノウズメが笑っている.

天孫降臨の段でも※12のようにアメノウズメが笑っている.

井上氏によれば「笑い」には力があると思われていたのではないかという.

つまり,この「笑い」は祭祀の一部であり,面白くて笑ったというより最初から予定されていた「笑い」ではないかということである.


今回のテーマは日本神話でもよく知られた話であろう「天の岩屋」について細い解釈を説明頂き,深く読み込むことの重要性について痛感させられた.

この「天の岩屋」はアマテラスにとって,指令神または最高神となるための重要な通過点と言われているそうだ.

つまり,天皇の正当性を示すための重要なエピソードであると言えるだろう.

有名なエピソードほど深く読み込む必要性を感じた.


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by Allegro-nontroppo | 2014-06-15 19:09 | 講演会,シンポジウムなど
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