5月3日にキトラ古墳壁画を東京国立博物館に見に行ったのである. 噂通り凄い人であった. 9時45分に特別展の入場者の列に並んだのだが入館できたのは11時ごろであったから,1時間以上も並んだことになる. 何年か前の「阿修羅展」に並んだことを思い出してしまうが,あちらはこれより長い時間並んだと記憶しているし,なにより太陽を遮るものが何もない所に並ばなければならなかったので,非常に苦しかった. 一方,こちらは並ぶ場所に木陰が多かったので,そのぶん楽である. 列からは「栄西と建仁寺展」に並ぶ人も見えたが,列が短く,頻繁に動いているようだったので,すぐ入場できそうであった. ちなみに,この「栄西と建仁寺展」に先日訪れたときに前売り券を買っておいたので,入場券購入の列に並ばずに済んだのは本当に良かった. (「栄西と建仁寺展」の当ブログ記事はこちら) さて,展示室 (今回は本館特別5室) に入場するとまず,四神及び十二支のパネルが展示されている。 その先に進むと四神+天文図の複製陶板やキトラ古墳墳丘模型が並んでいる. 今回の展示では青龍 (東壁) と天文図 (天文図)は来ていないので,じっくり眺めた. 次に展示されているのはキトラ古墳の出土遺物である. 出土遺物がどれだけ出ているのか調べていなかったので分からないが,琥珀玉以外は全て実物であった. 展示されているとは思っていなかった銀装大刀関連もかなり展示されていたので,感激してしまった. 壁画の剥ぎ取り作業や修復作業のビデオ上映を経て,ついにキトラ古墳壁画の実物と御対面である. この前にも少々列ができていたが,5分並んだかどうかである. まず展示は四神(玄武・白虎・朱雀の順だったと思うが,だいぶ記憶が怪しい)から. 描かれてから千年以上経っているとはとても思えないほどはっきりと絵が見える. 一部,泥水などの影響で赤く見えにくくなってしまっている部分もあったが,逆にそれ以外の部分に影響がないといういうのは,当時の岩石の工作技術の凄さを物語っていると思う. 玄武は緻密さ,繊細さを感じさせてくれるし,白虎は伊藤若冲の虎を思い出させるような,愛らしい顔立ちをしている. 朱雀は優雅に羽根を広げて疾走している. 光の十分に届かない石室の中で描いたとは思えない素晴らしさだ. 次に十二支のうち子と丑 (北壁) と複製陶板の寅 (東壁) である. 正直なところ子と丑は不鮮明でどのような絵が描かれていたかは他の十二支から想像するしかない. そこで,隣に並べられた複製陶板を眺めてみるのだが,思い出したのは死者の書に描かれたエジプト神話のアヌビスである. 彼は犬またはジャッカルの頭をもつ半獣の姿で描かれているが,寅やパネルの午をみるとどちらも寅と午をもつ半獣の姿である. おそらく,他の十二支たちも似たような姿で描かれていただろう. 古墳→死者の書という連想ではあるが,エジプトでも日本でも死者の世界には半獣がいるのかもしれない. 最後に高松塚古墳壁画の飛鳥美人等がパネルで展示されていた. こちらは,すでに1月に遠目とは言え見物しているのでさらっと眺めるにとどまった. (その際の記事はこちら) 全体の感想としては壁画は絵の描かれている部分のみをはぎ取っているということに愕然とした. 例えばキトラ古墳の北壁には玄武と十二支の三体が描かれているとされているが,十二支は6体のみしか発見されていない. 今のところ「判明している壁画」剥ぎ取りが完了したとされているが,では判明していない壁画はどうしているのだろう. そもそも,部分,部分のみで剥ぎ取っているというのがいただけない. 画家は壁一面をキャンバスとして描いたはずで,それなのに個々が確認されている部分のみを剥ぎ取るのは,レオナルド・ダ・ヴィンチの「最後の晩餐」のイエス・キリストと十二使徒それぞれを保存のためと言って分割するのと何ら変わらない. 剥ぎ取った今となっては四神がそれぞれの方位に描かれていたということなど,二次資料でしか確認できないのだ. 描かれた対象を考えるに,これらの壁画は方位や配置に重要な意味があることは素人の私だって分かるのに. 今後,数々の分析技術が発展していくことは間違いないが,この壁画の復元についてはもう無理と思ってよいかもしれない. 以上が,特別展 キトラ古墳壁画の感想である. ところで,GWの真っただ中,5月3日の大混雑の中でわざわざ行くなんて「酔狂な」と思われた方がほとんどだと思う. 私もできれば,こんな日には行きたくないと思っていたが,この5月3日の記念講演会の受講券を入手していたため,覚悟して訪れることにしたわけである. この講演会についてはまた次回. ※2014年5月21日に誤字・脱字を修正した. 内容変更はなし. 申し訳ありません.
by Allegro-nontroppo
| 2014-05-05 19:20
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