メタノールとあれやこれ

  今日、いつものようにニュースサイトを眺めていると、珍しい単語が目に飛び込んできた。
「メタノール」である。 

ニュース:メタノールが燃え移り、中学校長が重体
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20131202-00000148-jij-soci
http://headlines.yahoo.co.jp/videonews/jnn?a=20131203-00000008-jnn-soci

  詳しい内容については上記サイト等ご覧頂きたいが、簡潔にいうと、メタノールを焼却処分しようとした中学校長に火が燃え移り、重体となってしまったとのことである。
被害者の回復を祈るばかりである。

 ところで、このメタノールは日常生活ではなかなか接する機会はないが、私の仕事では頻繁に使用する試薬の一つである。
そのせいで今日もメタノール、メタノールと何度もWordに打ち込んできた。
ということで、せっかくだからなじみ深いこのメタノールについて取り上げてみたい。





f0305926_22570468.jpg

  メタノールは別名メチルアルコールとも呼ばれることから分かる通り、アルコールの一種である。
化学においてのアルコールとは炭化水素(炭素原子(C)と水素原子(H)のみでできた化合物)の水素原子をヒドロキシ基(-OH基)で置き換えた化合物の総称である。
(ただし、例外もたくさんある)
このアルコールの中で最も有名なのはもちろん「エタノール(酒精)」であろう。
普段、私たちは酒精を指してアルコールと呼ぶが、化学的に言えば、これは正確ではない。
鳥と言ったときにそれはスズメを指すかと言えば、そうでない場合もあるのと一緒だ。
カラスかもしれないし、ハトかもしれない。
アルコールと言った場合もメタノールだか、エタノールだかそれとも1-プロパノールか2-プロパノールだか分からないのだ。 
  ただ、メタノールとエタノール、同じアルコールであるし、炭素の数も一つしか違わないが、日常生活で使用する上では大きな違いがある。 メタノールには飲用毒性があるのだ。
経口では50 mLほどで致死に至るし、また目に入ると失明する。
日本でも昔、密造酒や酒の嵩増しなどでメタノールの中毒事故が多発していたようだ。

 このように危険なメタノールだが、有機化合物の分析には欠かせない。
現在の有機化合物の分析では高速液体クロマトグラフィーが主流である。
さらに言うなら、逆相クロマトグラフィーであろう。
その理由としては再現性が高い分析が簡便にできるという点にあるが、その分析名をみれば一目瞭然であるように、分析したいものを液体に溶かす必要がある。
このとき、目的の化合物が水に溶ければよいが、そうでない場合は有機物に溶かすしかない。
逆相クロマトグラフィーを行う場合、溶媒として選択されるのはまず、高極性のメタノールやアセトニトリルである。
何故なら、移動相に高極性のものを使う必要があるからだ。
このあたりを詳しく書くときりがないので、ここでは省略するが、気になる方は高速液体クロマトグラフィーメーカー等のサイトを見て頂きたい。
(参考ページ:http://www.jaima.or.jp/jp/basic/chromatograph/lc.html)
 
  私は業務上、上のような理由でメタノールを使用しているが、この管理は厳重である。
メタノールは劇物指定されているし、それ以上に問題なのが危険物指定されているのである。
つまり揮発性が高いので引火の危険性が非常に高いということである。
この性質は、エタノールとよく似ている。
メタノールは私の経験上、皮膚に触れるとヒヤッとし、そして一気に揮発してしまう。
このヒヤッとする感覚はメタノールの温度が低いというより、揮発性が高いため、揮発する瞬間に周囲の熱を一気に奪ってしまうためだろう。
我が社ではメタノールは可燃性試薬庫にしまわれている。
この可燃性試薬庫は扉などの厚さが5 cmほどあり、しかも、扉が開いた状態で火が迫ると扉が自動的に閉まるという優れものである。
単純に扉のストッパーが火で溶けるという仕掛けであるが。
  ところで、このような危険なメタノールがなぜ小学校にあったのだろう。
この事故のメタノールは被害者の妻、小学校の教頭が持ち帰ってきたという。
私の記憶でメタノールを使ったのは大学の卒業研究で使ったのが初めてである。 
  
  そこで、調べてみるとなんと、アルコールランプに使用されているらしい。
そういえば聞いたことがあるような。
アルコールランプならば私も小学校で使用した記憶がある。
  しかし、それに使うために一斗缶のメタノールを置いていたとは驚きである。
我が社ではメタノールなどは大量に使用しているが可燃性試薬はあまり置いておきたくないので、頻繁に購入し、あまりストックを置かないようにしている。
メタノールの一斗缶があまり設備の整っているとは思えない小学校でどのような状態でストックされていたのか疑問を感じる。
もちろん、少量で購入すると割増値段になってしまうが、危険回避の観点から言えば信じられないとしか言えない。
  また、メタノールを焼却処分しようとしていたという。
メタノールを大量使用している企業ではメタノールを含む廃液が何百リットルになろうとも専門の廃棄業者にお金を払い、処分を依頼するのが常識だ。
   それをたった18リットル処分するために焼却処分にするとは。
ニュース記事をみると市教委でも専門業者に委託するよう規則で定められていたらしい。 最後に焼却したという部分である。
アルコールランプの燃料に使われているくらいだから、揮発性と引火性が高いことは常識的に考えれば分かる。
分かったから焼却処分しようと安直に考えたのかもしれない。
メタノールに火をつければ一気に燃え上がり、また完全に燃えなかったメタノールはどんどん揮発しただろう。
そして、被害者の衣服に付着したことは想像に難くない。
被害者が火だるまとなってしまったときに、妻や近所の人が水をかけて消したというが、どれだけの時間がかかったことだろう。
  私は以前、ミスで50 mLほどのエタノールに引火させてしまったことがある。
このときはとても水では消せなかったので、とにかく酸素を与えないように必死に蓋をして消し止めた。
 
   この事故は安易な自己判断を戒める事例の一つになりそうだ。
メタノールはアルコールの中では比較的安全と言われているが、一歩間違うと大変な事故につながる。
煩わしい決まりも全て我々の安全に繋がっている。
また、事故の当事者が中学校校長及び小学校教頭であることに不安を感じる。
学校教諭に対する危険物、毒劇物の教育やあいまいでない明確な決まりが必要ではないかと感じる。



[PR]
by allegro-nontroppo | 2013-12-03 23:00 | あれやこれ
<< 伊勢から春日へ アマテラス及び神宮考 -おまけ- >>